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大阪高等裁判所 昭和41年(う)1394号 判決 1966年12月17日

被告人 東京観光株式会社

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一万円に処する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人横田静造、同松岡清人共同作成の控訴趣意書及び弁護人横田静造作成の補充控訴趣意書各記載のとおりであるからこれを引用する。

控訴趣意第一点、法令適用の誤りの主張について

論旨は、原判決は児童三名を自己の支配下においたものとする被告人の判示所為を併合罪の関係に立つものとしている。しかし、数名の児童を支配下におく行為が各児童ごとに別罪を構成し併合罪となるというのは行為者を処罰する場合にのみ正当であつて、本件のような業務主の処罰についてはそのまま妥当しないと考えられる。本件において、被告人たる会社がトルコ風呂の業務主であることは勿論であるが、児童たるA子ら三名を直接に採用したのは営業課長持田貞夫、営業主任玉井道雄らの従業者である。ところで業務主の処罰は業務主に犯則者に代つて罪責を負担せしめているのではなく、従業者の違反行為についての監督不行届の業務主自体の過失責任に基くものと解すべきものである。そこで、業務主が自己の犯罪につき責任を負うものであるとするならば、この過失犯の罪数は業務主(具体的には代表者)そのものについて従業者の行為とは別個独立に考察すべきものである。

本件では、被告人会社のトルコ風呂という同一営業のためトルコ嬢という同一職種に一応採用行為者とみなされうる営業課長たる持田貞夫が各児童をほば同時期に採用したものであり、しかもそれはトルコ嬢六〇名中僅かに三名であつて、被告人会社の代表者たる文東建はもとより、実質上の業務運営責任者たる李道済も右持田らから各児童が所謂年足らずであることを全く知らされておらず、警察より捜査を受けて初めて気付いたものであるから、業務主たる被告人の児童使用の過失の態様からみて少くとも被告人会社については本件を併合罪とすべきものではなく、包括的に一罪として考察すべきものである、というのである。

よつて記録を精査し案ずるに、児童福祉法第六〇条第四項により法人がその代理人、使用人等従業者の同法第三四条第一項第九号、第六〇条第二項に該当する違反行為に基づき負担する責任は、法人の機関たる代表者が従業者をして法人の業務に関し前記違反行為のないように注意監督する義務を懈怠したことに基づいて負担する行政犯に特殊な過失責任(但し、右過失の存在は推定される)と解せられるが、だからといつて数人の児童に対し法人の従業者が前記違反行為をなした場合に業務主たる法人についてはこれを包括して一罪が成立するものと解すべき理由はない。蓋し、児童福祉法第三四条第一項第九号、第六〇条第二項に該当する罪は児童の心身の健全性を保護法益とするものであるから数人の児童に対し同罪を犯した法人の従業者については各児童毎に一罪が成立することは疑を容れないが、これに随伴して業務主たる法人につき成立する罪(法人の代表者に従業者に対する指揮監督上の過失があつたため従業者に右違反行為をさせた所為)もまた保護法益を同じくするものであり、同法第六〇条第四項は同罪につき特に「業として」なされることを構成要件としておらず、また業務主たる法人については違反行為の反覆されることを当然予想した規定とも解せられないから、当該法人についても行為者と同様各児童毎に一罪が成立するものというべきだからである。されば、原判決が被告人会社につきA子ら三名の児童に対し夫々一罪が成立するものと解し、併合罪として処断したのは正当であつて、原判決には何ら法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。

控訴趣意第二点、量刑不当の主張について

所論にかんがみ記録を精査し案ずるに、本件犯行の罪質、態様、殊にA子及びB子の両名については被告人会社営業課長持田貞夫あるいは被告人会社の委嘱により採用のための面接に当つた山本某において採用当時既に一八才未満なることを知つていたこと、児童であるA子ら三名を所謂トルコ嬢として深夜の午前二時迄働かせていたことなどに徴すると、犯情芳しからざるものがある。しかし、トルコ嬢の業務は児童が従事することは心身に有害であると認められるけれども、業務自体としてはそれが正常に運営される限り風俗を害するものとはいえないこと、被告人会社が雇用していたトルコ嬢約六〇名中児童は右A子ら三名にすぎないことなどを参酌すると原判決の罰金三万円の刑は重過ぎると思料される。論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八一条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い直ちに判決することとし、原判決の確定した事実(但し、原判示事実に「A子(昭和二三年一月二五日生)」とあるのは「A子(昭和二三年一月一五日生)」の、「本間こと小田幾代」とあるのは「本間こと山田幾代」の各誤記であることは原判決挙示の証拠に徴し明らかである)にその挙示法条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 江上芳雄 木本繁 山田忠治)

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